• 水. 11月 20th, 2024

Columns on Hospitality & Talent Growth

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給与だけでは満たせない: 2%の真実

給与は従業員満足度にどの程度影響するのか?これは多くの経営者や人事担当者が直面する重要な課題です。しかし、数々の調査や研究は、給与だけでは従業員の心を満たすことができないという事実を示しています。本稿では、給与の影響を明確にするとともに、職場での満足度を向上させる鍵となる要因について考察します。

 
給与と仕事満足度の関係性:データから考察する

フロリダ大学のビジネススクール、ティモシー・ジャッジ教授らによるメタ分析から、収入(給与)と仕事満足度の関連性が非常に低いことが明らかになっています。この研究によると、収入が仕事満足度に与える影響はわずか2%程度に過ぎず、給与が幸福感や満足感を大きく左右する要因ではないという結論が示されています。【出典:Judge et al., 2010】

一方で、仕事満足度に影響を与える要因は多岐にわたるため、それらを一括で数値化することは困難とも言われています。これは、調査によって業界、文化、職場環境、個人の価値観などの影響が大きいため、結果が異なるのが現状だからです。しかし、多数の文献や研究をもとに、主な要因とその相対的重要性について以下のような仮説を立てることが可能です。

 
従業員満足度の98%を握るものとは?ホテル業界の未来を考える

 

仕事満足度に影響を与える要因の分析は、通常、インタビューや調査結果などの質的データに基づいて行われます。また、業界、文化、職場環境、個人の価値観によって結果が異なるため、調査ごとに異なる結論が導かれることが多く、数値化が難しいのが現状です。
 
そこで、本稿で示されている各数値は、GallupやSHRM、Handwryttenなどの信頼性のある研究や報告書をもとに、職場文化、人間関係、意義、成長に関するデータを「満足度に影響を与える主要因」として取り上げています。具体的なデータがない場合には、質的な分析をもとに推測した参考値を仮の数値として割り当てています。そのため、記事内で取り上げる数値は絶対的な指標ではなく、全体像を把握するための一助としてご参照ください。

 

要因 推定値 数値の論拠(出典)
人間関係 30% 職場での信頼関係や同僚との関係が満足度に大きく影響する
(出典: Harvard Business Review (HBR) – 「The Impact of Relationships at Work on Employee; Gallup 2023 Workplace Report)
職場文化 25% 心理的安全性や文化の影響が従業員満足度を支える重要な要素
(出典: Gallup 2023 Workplace Report; SHRM)
意義と目的意識 25% 自分の仕事に意義を感じることが満足度向上のカギ
(出典:  McKinsey & Company – 「Help Your Employees Find Purpose—or Watch Them Leave」)
成長と達成感 15% キャリア開発と自己実現の影響
(出典: SHRM (Society for Human Resource Management) – 「Building a Culture of Growth」; Gallup)
給与 2% 給与の限定的な影響
(出典:Judge, T. A. – A Meta-Analysis of the Literature. Journal of Vocational Behavior –
「The Relationship Between Pay and Job Satisfaction: A Meta-Analysis」; Gallup)

(上記の数値は、各要因の相対的な重要性に関する文献や研究結果を参考にし推測したものを示しています。)

 


 

1. 給与が満足度に与える影響を2%と仮定

「給与が満足度に与える影響は小さい」とする研究結果は多数存在します。その中でも、以下のデータをこの仮説の根拠として挙げることができます。

 {2%の仮説の根拠となるデータ}

  1. ティモシー・ジャッジ教授のメタ分析
    ジャッジ教授のメタ分析によると、お金と仕事の満足度の相関係数は約0.2と報告されています。この数値は、「給与が満足度全体に占める影響が約2%程度に過ぎない」という推測の根拠となります。具体的には、相関係数の平方(*0.2² = 0.04)が影響の寄与率を示し、給与が満足度に与える影響がわずかであることが示唆されています。
    (*注釈) 直接的な影響の範囲を2~4%とするケースもあります。
  2. Gallupの研究
    Gallupのレポートでは、給与の影響が満足度に与える影響は限定的であると結論付けています。同報告では、むしろ職場の文化や人間関係が満足度に大きく寄与する主要因として強調されています。具体的なパーセンテージで示されていないものの、こうした質的な情報を考慮し、本稿では給与の影響を2%と仮定しています。

 

2. 他の要因を98%と仮定

GallupやSHRM、Handwryttenの記事などの文献を基に、「従業員満足度に影響を与える主要因」として挙げられている要素(職場文化、人間関係、意義、成長)を質的に分析し、それらの影響度を以下のように仮定しています。

 {仮定の根拠となるデータ}

  1. 人間関係(Colleagues & Relationships)30%
    Gallup, 2022の「State of the Global Workplace」報告書によると、職場での良好な人間関係はエンゲージメントに30%~50%程度の影響を与えるとされています。(※しかし、50%という数値は、特定の職場環境における最大値と考えられます。)
    また、SHRM(Society for Human Resource Management)のデータでは、信頼関係の影響が25%~35%程度とされています。これらのデータを比較した結果、中央値に近い(範囲の重複と一般性からも)30%を採用しました。さらに、職場での信頼や協力関係がストレス軽減や満足度向上に寄与する重要性が複数の研究で確認されており、この値が妥当と判断されます。
  2. 職場文化(Workplace Culture)25%
    SHRMの調査によれば、職場文化が従業員の満足度に与える影響は25%程度とされています。特に、リーダーシップの質、評価制度の透明性、チームの一体感などが重要な要因とされています。また、Gallupの研究では、職場文化の改善が従業員エンゲージメントを約23%向上させると報告されています。これらの結果を踏まえ、職場文化の影響を25%に設定しました。
  3. 仕事の意義と目的意識(Job Meaning)25%
    McKinseyの調査によると、従業員が自身の仕事に意義を感じる場合、その満足度が大幅に向上することが報告されています。特に、「自分の仕事が社会や組織にどのように貢献しているか」を実感できる環境では、エンゲージメントが約30%増加する傾向があります。ただし、Gallupの「State of the American Workplace」においては、仕事の意義が満足度に与える影響を25%前後と評価しています。この差異を考慮し、McKinseyの高い数値を加味しつつも、Gallupの保守的な見解に基づき、本稿では「25%」を設定しました。
    さらに、仕事の意義が満足度に与える影響は、特に若年層(ミレニアル世代およびZ世代)において顕著であることが複数の研究で示されています。これにより、従業員満足度の中核的要因としての役割が強調されています。
  4. 成長と達成感の影響(Growth & Achievement )15%
    Gallupの調査では、キャリア成長の機会が従業員のエンゲージメントに与える影響は15%程度であると報告されています。また、SHRMの調査では、成長機会が満足度に寄与する要因として言及されているものの、他の要因(人間関係や職場文化)ほど大きな影響を与えないことが確認されています。これらの結果から、本稿では「15%」という値を設定しました。
    特に、成長の機会が与えられない場合、従業員が感じる不満足感が離職の要因となる可能性が指摘されています。一方で、達成感は、具体的な目標設定や評価制度と関連しており、それが従業員満足度を向上させる要素として働くことが確認されています。これらの要素を統合し、15%という数値が適切であると判断しました。

※GallupやSHRM、Handwryttenの記事などで、「満足度に影響を与える主要因」として挙げられている要素(職場文化、人間関係、意義、成長)についての質的な分析に基づいています。

 
離職率を減らすには?職場文化と人間関係が鍵を握る

 

離職率をどのように減らすかという課題に向き合う

離職率の課題に直面するホテル業界において、「給与が低いから離職率が高い」という単純な仮定は再考する必要があります。実際に、離職率が低いホテルの中には、必ずしも給与が高いわけではない例もあります。つまり、給与以外の要因が、従業員のエンゲージメントや満足度に大きな影響を与えている可能性が示唆されます。
(もちろん、給与がモチベーションに一定の役割を果たすことは否定できません。しかし、満足度全体に占める割合としては非常に限定的だということが上記のデータからも示されているといえるでしょう。)

私自身、職場環境にめぐまれ、毎日残業が多くあったにもかかわらず、自分の仕事に誇りを持ち、常に楽しいと感じた経験があります。
良い先輩や良い仲間にも恵まれただけでなく、意欲的に仕事させてくれる環境、色々勉強させてもらえる環境があったからなのだとも思います。

このような経験から、ホテル業界で離職率を改善するには、職場環境や文化、人間関係の質を見直すことが鍵だと感じています。もちろん、一定水準の給与の確保や向上も重要です。しかし、給与だけでなく、従業員が「ここで働きたい」と感じる環境作りが、本質的な離職率の改善につながるのではないでしょうか。

 

 

 

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